厚生労働省による「薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会 新開発食品調査部会 報告書(案) ゲノム編集技術を利用して得られた食品等の食品衛生上の取扱いについて」に対する意見募集についての日本植物バイオテクノロジー学会からの意見

平成31年2月22日

厚生労働省医薬・生活衛生局食品基準審査課
新開発食品保健対策室 御中

厚生労働省による「薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会 新開発食品調査部会 報告書(案) ゲノム編集技術を利用して得られた食品等の食品衛生上の取扱いについて」に対する意見募集についての日本植物バイオテクノロジー学会からの意見

 「薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会新開発食品調査部会遺伝子組換え食品等調査会」の議論を経て、同部会において、ゲノム編集技術を利用して得られた食品等の食品衛生上の取扱いについて、部会報告書(案)が作成されました。ゲノム編集技術の利用により得られた食品について「食品衛生法」に照らして整理を行ったことについて、日本植物バイオテクノロジー学会として高く評価致します。その上で、「薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会 新開発食品調査部会 報告書(案)」(以下、「報告書(案) 」とする)の実効性を高めるためにも意見を提出させていただきます。

 日本植物バイオテクノロジー学会は、従来の組織培養と遺伝子工学を活用した植物バイオテクノロジーはもとより、代謝工学、分子遺伝学、基礎植物生理学、オミクス解析、バイオインフォマティクス、ゲノム科学等幅広い学問分野について、理学、農学、薬学、工学など出身分野の枠を超えた横断的な研究者交流の場として、日本の科学技術の発展に寄与してきました。さらに、近年、ゲノム編集技術の登場により、1980年代の遺伝子組換え技術の登場と同様の衝撃をもって新たな研究領域が開拓されつつあります。ゲノム編集技術の開発、発展、そして社会実装への貢献がますます求められる時代に突入しており、それに向けた研究開発を推進する立場で活動しています。日本植物バイオテクノロジー学会として、以下の意見を提出します。

1)報告書 (案) において、導入遺伝子及びその一部が残存しないことで遺伝子組換え食品にあたらないことを示され、また、従来の育種技術と比べて安全性について議論を行ったこと、リスクコミュニケーションの推進、調査研究の推進に取組むことが明示されたことは、開発された食品の取扱いのみならず、消費者の不安解消への取組みも促された報告書(案)であることを評価します。
2)規制の考え方も、SDN-1やSDN-2などの手法によって分けるのではなく、改変された塩基配列により判断するプロダクツベースの評価は製品の安全性を担保する最も適切な考え方と思われます。 3)部会等の議論において、オフターゲットに対する懸念や予期せぬアレルゲンの生成等に対する懸念が議論されました。議論の中にあるようにこれまでの遺伝資源及び育種においても同様のことが起こっており、育種過程で選抜という方法で克服し、人類はそれを許容してきました。またゲノム編集でも得られた候補の中から選抜で優良なものを残していくことはこれまでの選抜と同じであると考えられます。そしてこれまでと同様、開発者は明らかに問題があるものを商品化することはないと考えられます。今後とも現実を鑑みた規制対応をお願いします。
4)情報提供を求める仕組みにおいて、「将来の届出義務化の措置変更も視野に入れつつ、届出の実効性が十分に確保されるように・・・・」とありますが、将来的には義務化するとも解釈できます。しかし、これまでの突然変異と同様のことを規制することは従来育種までも規制することに繋がりかねません。これまでの規制との整合性や検出の可否に基づく実効性を勘案して現実的に対応されるようお願いします。
5)本報告書(案)は大きな方針を示すもので、詳細については引き続き検討されると理解しておりますが、「開発者等に求める情報」の「ウ.・・・・・ヒトの健康に悪影響を及ぼすことがないことの確認・・・」などについて、開発者に過度の負担とならないような評価の方針と対応をお願いします。 6)一度届出をしたゲノム編集作物等を通常育種に用いる場合、改めて届出は必要ないという回答がなされています。従って、届出をしたゲノム編集作物等間の交雑も特段の届出は必要ないと理解していますが、それについて方針を明示していただきたいと思います。 7)食品衛生法においても、セルフクローニング及びナチュラルオカーレンスを植物及び動物にも適応するための検討をお願いします。
 日本が、いち早くゲノム編集食品の食品衛生法上の取扱いの明確化を進めたこと、それもプロダクツベースによる整理を行ったことは非常に重要であると思います。このように規制の方向が定まることにより、一般国民の不安を取り除き、日本の研究所や大学等における基礎的な研究領域だけでなく、ゲノム編集技術を用いた食品産業等への活性化に繋がると考えられます。日本は農産物を多量に輸入していますが、日本を取巻く国際的な食品産業、食品流通の中で孤立することなく、食の安全を保つことができると思います。

一般社団法人 日本植物バイオテクノロジー学会 理事会
代表理事(会長) 山川 隆