「農林水産分野におけるゲノム編集技術の利用により得られた生物の情報提供等に関する具体的な手続について(骨子)(案)」に対する意見募集に対する日本植物バイオテクノロジー学会からの意見
【1】 環境省通知では、「ア 得られた生物に細胞外で加工した核酸が含まれない場合」はカルタヘナ法の「遺伝子組換え生物等」に該当しないという判断を強く支持し、カルタヘナ法の対象外とされた生物の使用等にあたっては、生物多様性への影響に係る知見の蓄積と状況の把握を図る観点から、当面の間、義務ではないものの「使用者」から情報収集する方針を支持しました。理由は、外来核酸を有しないSDN-1として作成されたゲノム編集生物は従来の突然変異と差異はなく、情報提供も義務化する必然性がないと考えられるからです。しかしながら、「農水省手続き」では義務化ではない届出としながら、実質的な生物多様性影響評価を求めていると受け取らざるを得ないほど、多くの情報を求めているように思われます。以下に、ここの問題点について意見を述べさせていただきたいと思います。
1)農水省手続きの事前相談には、「農林水産省は、カルタヘナ法における「遺伝子組換え生物等」に該当しないこと、生物多様性影響の観点から情報提供書の案が適切に記載されていること等について確認する。」とあり、届出の事前相談が義務化と思われるように記載され、「確認する」となれば評価と同様であり、「義務化ではない届出」とは乖離したことになると思われます。特にゲノム編集技術の利用により得られた生物であることが検出不可能と考えられる場合があるため、罰則の伴う義務化はできないと考えられます。運用にあたっては、過度の「規制」にならないようにお願いいたします。
2)情報提供書の項目9「8以外に生じた形質の変化の有無(ある場合はその内容)」において、「形態及び生育の特性、越冬・越夏性、種子の生産量、脱粒性、休眠性及び発芽性等について、宿主とゲノム編集技術の利用により得られた生物との間に差が生ずる可能性について記載すること。」とあり、遺伝子組換え生物と同じ生物多様性影響評価を求めているように思われます。これではゲノム編集生物が規制対象外となる意味はなくなるように思われます。
3)生物多様性影響について考察する項目については、前述の2)と同じことで、カルタヘナ法の規制対象外とした意味が薄れていると思われます。
上記の 2)、3)については、求める情報は従来の育種において新しい生物(品種など)を作出する際の情報と同等の水準にとどめないと、現在行われている育種法にも同等の規制が及ぶようになる可能性があり、現実的ではありません。今回の「農水省手続き」では、新しい育種技術であるゲノム編集によって作られた生物の性質の分布(ばらつき)が従来の育種によって作られる生物の性質の分布範囲を超えなければ、生物多様性への影響はこれまでと同等とみなし、その技術を受け入れて、新しい生物は従来の育種技術における「遺伝子組換え生物等」に該当しない生物の取扱いと同等の規制をするという考え方であるからです。
今回の「農水省手続き」が対象としているゲノム編集は新技術であることから、科学的には生物多様性への影響が「従来の育種と同等」と評価されても、念のため当面の間カルタヘナ法に規定された「遺伝子組換え生物等」に近い取り扱いをすることになっています。国内外の農林水産分野でゲノム編集技術の利用実績が蓄積されて、生物多様性への影響が実際にも明らかにされ、それが従来育種と同等と判断された場合は、農林水産業の技術的な発展のため、速やかに従来の育種技術と同等の取り扱いに改定されるようお願いいたします。
【2】 記述の用語です。情報提供書の項目7(2)で「当該部位がコードする遺伝子に関する情報・・」いう記載がありますが、変異を導入するのは必ずしも遺伝子に限りませんので、「当該部位がコードする遺伝子または配列に関する情報・・」とするべきではないでしょうか。
【3】 要望ですが、先に述べた様々な懸念を払拭するために、経済産業省が「20190627商部第2号」と同時に示されたような記載例を示していただき、利用する者を不安にするようなことのないようご配慮いただきたいと思います。
ゲノム編集技術を用いた研究開発が激化しております。政府の指導の下に各官庁が規制のあり方についてスピード感を持って検討していることは、研究分野においても産業界においても農林水産業を発展させるための大きなチャンスであると思われます。一般国民の不安に応えながら安全性を確保しつつ、適切に利用できる環境整備をお願いしたいと思います。
一般社団法人 日本植物バイオテクノロジー学会 理事会
代表理事(会長) 山川 隆